日本文化政策学会では、2022年1月1日より第1回の学会奨励賞のための応募受付を開始し、受理した論文および著書について審査を行いました。以下に、その結果をお知らせいたします。
○審査結果
[論文の部]
該当作なし
[著書の部]
中村美帆『文化的に生きる権利――文化政策研究からみた憲法第二十五条の可能性』(春風社,2021年)
○審査過程の概要
今回は初回の審査であったため、審査基準・審査方法についても協議を行いました。まず、論文と著書では求められるものが異なるとの理解から、「論文の部」と「著書の部」の2部門を設けました。そして5名の審査委員が各候補作について、学会奨励賞審査委員会規則を踏まえた8項目につき、匿名で5段階の評価を行うとともに、300字程度の講評を提出しました。その結果は審査委員長が取りまとめを行い、それを審査委員全員で確認し、協議のうえで受賞作を決定しました。なお、8つの審査項目は下記の通りです。
A. 日本文化政策学会の目的にあった研究であるかどうか。
a. 広い意味での文化に関わる社会事象を焦点に当てている。
b. 実際の政策、政策のプロセス、政策上の判断を導く規範など、政策に視点を置いている。
B. 今後、研究者として発展可能性があるかどうか。
a. 研究目的に相応しい研究方法を採り、的確に遂行している。
b. 学術的著作として十分な体裁を整えており、論理の展開も明確である。
C. 研究内容に独創性または新規性があるかどうか。
a. 先行研究にない新しい理論や概念、モデルの構築、もしくは新しい観点や方法論の提示に成功している。
b. 学術的意義の高い、新規の事実・資料の発見や、研究領域の開拓を行っている。
D. 研究成果が文化政策の発展に寄与するかどうか。
a. 先行研究を充分に踏まえたものであり、文化政策研究の潮流の中に位置づけられている。
b. 豊富な根拠資料に基づいており、資料としての観点から見て利用価値が高い。
○受賞作についての詳細
[受賞作]
中村美帆『文化的に生きる権利――文化政策研究からみた憲法第二十五条の可能性』(春風社,2021年)
[講評]
本書は憲法25条にある「文化」という文言を、文化政策研究の視点から文化権として解釈、活用する可能性を示したものとして評価できよう。その「文化」に込められた思想や実践的可能性を、多角的かつ網羅的に検証した労作である。
本研究の優れているところは、丁寧に資料を収集・分析し、25条の提唱者の意図にまで踏み込んだ点にある。公的文書だけに頼りがちな政策研究において、その背景にある起草者やステークホルダーの真意を解明することは非常に重要である。歴史学や法学などの多様な分析アプローチもとりいれており、それら研究分野や思想史、国際文化学などの専門研究者、一般読者にも興味深く読まれるであろう。
先行研究が、いわば資料の形でしか利用されていない点や、構成の面で文化政策研究の潮流への位置づけ方が弱い点は残念である。繰り返しが多い点や、論旨に直結しない内容への言及、文化と芸術との関係の整理など、学術書としての体裁の面でも改善の余地がある。
しかしながら、多種多様な文献を丹念に読みときながら、多角的な視点で考察を加えており、研究資料としても利用価値の高い研究だと考えられる。今後の課題も明確に示され、研究者として励んでいこうとする意欲も感じられる。
今回の結果につきましては、2023年3月に芸術文化観光専門職大学(兵庫県豊岡市山王町7-52)で開催される予定の第16回年次研究大会で表彰式が開催されます(3月18日(土)13時30分~14時)。その際に奨励賞を受賞された中村美帆様には記念講演を行っていただく予定です。
なお、今回の審査結果につきましては諸般の事情により、公表時期が当初の予定より大幅に遅れることとなりました。関係するみなさまにお詫び申し上げます。
審査委員長 友岡邦之
審査副委員長 阪本崇
審査委員 川井田祥子
川村陶子
桧森隆一
以上